1968年から40年以上もの間イギリスで開催されている山岳レースOMM(ORIGINAL MOUNTAIN MARATHON)が、この秋に日本で初めて開催されます。あまり多くの人には知られていませんが、
そもそもブランドとしての OMM はトレイルランニングのブランドではなく、この山岳レースのためにウエアやザックを開発するブランドとして存在します。
ナビゲーションスキルが問われ、エイドステーションもない1泊2日のOMMレースでは、「山の総合力」が試されます。野営道具から食料まで、すべての生活道具の携行が必要となるため、ザックにはそれなりの容量を持ちつつ、軽く、走力を阻害しないものが求められます。
イギリスのOMMレースは現在5つのレベルが設定されていて、最難関の「エリート」と名付けられたクラスでは、文字どおり山での状況判断も脚力も非常に高いレベルを要求されます。そのクラスに参加するランナーに向けて開発されたのが、この2種類のパックPhantom 20 と Phantom 12 です。

Phantom20のフロント側。非常にミニマルなデザインだが、ループが多く設けられていてユーザーのアイディアを喚起する。
これまでのOMMのザックといえば、LEAN WEIGHT=使いやすさを犠牲にしない中で最大限に軽量に仕上げる――というマインドにもとづいた、「ザック自体は超軽量ではないが、それなりの荷物を入れて走ると背負い心地が圧倒的に軽いザック」というものでした。
一方でこの Phantom は、これまでのOMMのザックの進化系というよりは、まったくの別ライン。一定の野営スキルを持っていて、荷物を極限まで減らしても自分の経験と技術を駆使して切り抜けられる人向けなので、チェストの作りやパッドはかなり薄めですし、今までのOMMザックとは一線を画する作りになっています。

Phantom 12。エイドの少ないトレランレースやトレーニングに向く。
いちばんの特徴は、荷物の量と重さの状況に応じて、ザックを背負う身体の位置を自由に調整できるというところ。「背中全体とウェストベルトを使って通常のザックのように背負う」「トレラン用のベスト型ザックのように肩と胸のベルトだけで背負う」という2通りの背負い方ができるのです。
その変形のポイントとなるのが、取り外し可能なウェストポケット。このウェストポケットには2方向のフックがついており、上部(内側)のフックをショルダーハーネスに取り付けることで、ウェストベルトが胸の下を締めるベルトとして使用できるようになります。
合わせてショルダースラビライザーを引くことで、ザック自体が背中上部に上がります。そしてさらにショルダーベルトを微調整することで、よりリアルなベスト型のフィット感を実現することができます。
現在は20リットルくらいのベスト型の大容量ザックが数社から出始めていますが、このザックを見ると「ベスト型だと背負える重さに限界があるだろ?」というのがOMMなりのベスト型ザックへの回答なんじゃないかと思います。
また、ザック本体に数多くのループが付いていて、付属のコードで自由にコンプレッションができる配慮が見えるのもOMMらしいところ。容量が大きいザックで走る場合は、荷物が中で暴れないことがとても大切。荷物の量に応じて必要な箇所をギュッとコンプレッションできるので、荷物が多いときも少ないときも、荷物を固定して走ることができます。
なお、12リットルのタイプは、OMMレースに出場する人には小さめ。日本のレースでいえば、エイドがないハセツネCUPや、防寒具を持って行かなければならないUTMFには合わせやすそうです。帰宅ランニングにもいい大きさでしょうね。組み合わせて容量を増やせるアクセサリーが来季に登場予定なので、そちらと合わせて使うとOMMレース用としても使えるモデルです。
一方で20リットルは、OMMレースの上級者や、超軽量にこだわるファストパッカーに最適です。ただ20リットルといっても、かなり余裕のない20リットルなので、幕(テント)はツェルトにするなど徹底的にストイックになれる人でないと使いこなせないと思います。
そこは個人の性格や嗜好の問題もあるので、無理は禁物です。このザックを使って「俺にはやっぱ向いてない!」と窮屈さを感じた人は、無理せず以前のザックに戻すのが正解です。
このザックを見ると、従来のOMMのモデル、20リットル、25リットル、32リットルのザックの良さがあらためて見えてくる……というのも、また面白いところではないかと思います。ちょっと久々にグッとくる挑戦的なアイテムでした。
- 製品名1
- Phantom 20
- 価格1
- ¥24,000(税別)
- 製品名2
- Phantom 12
- 価格2
- ¥20,000(税別)
- メーカー
- OMM